小説の中の役行者

役行者を描いた作品はいくつかある。
日本古代史を描いたら右に出る者はいないと
言われている黒岩重吾氏、思い切った自説を
展開する黒須紀一郎氏、六道慧氏がその主なもの
と言えるだろう。

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役行者側から見る藤原不比等は、民を苦しめる
律令制度の選定者として、やや「悪」として描かれる
...と想像していたが、そうではなかった。

意外だった。
黒岩重吾氏の「役小角仙道剣」(新潮文庫)の中で、
「悪」と言えば不比等ではなく石上朝臣麻呂だった。
あまり名前が浮上しない人物だが、常に不比等の
上の階級に属し、左大臣にまで上り詰めた男だ。

黒岩氏は、この石上朝臣麻呂を「闇の左大臣」として
描いている。(集英社文庫)
野心家であり、策士でもある、正に「黒幕」と言うに
相応しい、アクの強い人物として描かれている。

この石上朝臣麻呂に対して不比等は、律令制による
締め付けがいかに民を苦しめているか、具体的に
想像できない裕福な貴族として描かれている。

律令は現場を知らないお坊ちゃんによる机上プランで
あったに違いない。
律令制を確立させるためには、それを行使する役人の
モラルをも取り締まらなければならないということに
気付いていく。
役行者の目を通して時代を見ているような感覚になる。

産声を上げた「国家」がいよいよ形を成して行く時の
暗中模索と試行錯誤の時代がリアルに描かれていて、
黒岩氏の想像力が単なる妄想やイメージではなく、根拠
のある推理に近いものであることを再認識した。

この様な小説家の作品に出会うと、作家という人種の
直感力を信じたくなる。

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